「原発か自然エネルギーか」を議論しても意味が無い理由

Solar Panel
Solar Panel / Andreas Demmelbauer

民主党が「脱原発」を掲げて解散総選挙をするとかしないとか。これからの日本で原子力発電を増やしていくことは難しいでしょう。脱原発は前提として、その上で国民にとってわかりやすく、具体的で、希望の持てるエネルギープランを我々は慎重に選択していかなければなりません。

エネルギー論争の盲点―天然ガスと分散化が日本を救う (NHK出版新書 356)

2011年3月の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の大事故の後、エネルギー問題の議論は、あたかも原発を容認するか、廃絶して再生可能エネルギーに代替するかの二者択一のように矮小化されてしまった。

しかし、こうした二項対立図式の論争は不毛である。

利権でガチガチになっていた電力市場を再構築して、最も合理的なエネルギー政策を打ち立てられるか。本書を読むと、そのカギは「天然ガス」にありそうです。


Drive to Memanbetsu Airport / jetalone

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自然エネルギーへの転換と簡単に言うけれど…

石油は、一バレルで、新たに石油100~200バレルを獲得できるという、抜きん出た拡大再生産能力を誇る。(中略)

石油の驚異的な比率の高さの理由は、井戸を地下数千メートルの油層まで掘削すれば、石油が通常数百気圧という高い圧力で地中から自噴することである。

主要のエネルギーとして利用できるためには、エネルギー産出量/投入エネルギー率の高さと、安定供給がカギとなります。つまり、安価で安定的に供給できることが、現代文明を支える上で一番重要です。

再生可能エネルギーは、エネルギー産出量/投入エネルギー率が化石燃料よりもかなり低く、その上に、風力発電は風が必要ですし、太陽光は日中の晴天でないと発電できません。そもそも供給の安定性に致命的な欠陥を抱えています。自然エネルギーだけでは、原発の代わりにはならないのです。

石油がエネルギーのチャンピオンと言われているのは、エネルギー産出量/投入エネルギー率が圧倒的に高いことに加え、エネルギー密度が高く、火気さえなければ常温で発火しない取り扱いの容易さにあります。電気自動車の航続距離がガソリン車に及ばないのは、ガソリンのエネルギー密度が高いからです。

ちなみに、電気自動車のエネルギー効率は実は高くありません。駆動モーターの効率は90%近くありますが、発電所の発電ロスと送電ロスを加味すると、化石燃料を直接燃やして動力にするハイブリッド車の方が効率は高いのです。


New York by Night / melbow

エネルギーは文明を支えている基盤

なぜ、エネルギーはそれほどまでに重要なのだろうか?

それは「安くて大量で安定した」エネルギー供給がないと、現代文明は一日として維持することができないからである。

人類はいま、農業などの食物生産や、大都市・インフラの維持に、大量のエネルギーを投入しています。その結果、豊富な食料と、清潔な居住環境が整ったことで、爆発的に増えた世界の人口を維持できているのです。エネルギー供給が滞ることは、街灯が暗いとか、クーラーが使えないなどとは比較にならないくらい深刻な危機が訪れることを意味することを、念頭に置かなければなりません。

日本でも、世界でも、家庭での直接的なエネルギー消費と言うのは、全エネルギー消費の一割程度しかないのである。

実は家庭のエアコンの温度を上げたりするくらいでは、日本の根本的なエネルギー問題は解決しないのです。エネルギー全体を把握してから各論に入る必要があると、本書は主張しています。

さらに、日本の電気としてのエネルギー利用量は総利用エネルギーの25%、さらにその25%が原子力発電です。エネルギー全体から見ると、電気エネルギーは決して大きな量ではなく、原子力発電は、全体の1/4×1/4=1/16程度の話です。原子力発電への依存度は、実はそんなに大きな話ではありません。原発か自然エネルギーかより、エネルギー全体の議論をしないと、部分最適化になってしまいます。


Natural Gas / todbaker

天然ガスに革命が起きている

天然ガス、石炭を含む化石燃料全体では、今のペースで使用し続けても、今後数百年もつことは100%確実だ。

要するに、この十数年で、日本は欧州同様に、いわば使い切れないほど豊富な天然ガス資源に取り囲まれるようになったのだ。日本を巡る天然ガス資源の状況は、20-30年前と180度変わったのである。

技術革新による「シェールガス革命」により、安価で産出できる天然ガスの埋蔵量が飛躍的に増えました。天然ガス資源は、向こう400年は枯渇しません。

天然ガスは排出CO2が少ないうえに、コンバインサイクルと呼ばれる、ガスタービンで発電し排熱で水蒸気を発生させてさらに発電する「一粒で二度美味しい」方式だと、エネルギー当たりのCO2産出量は更に下がり、発電効率が約60%まで向上します。石炭火力発電の1.5倍の効率です。

原子力推進のために、化石燃料の中で最も環境負荷が低い天然ガスが長らく脇に追いやられてきたという事情がある。

天然ガスはパイプラインで輸送するのが一番輸送効率が良いことは世界の常識です。しかし日本では、一度冷やして液化させて(LNG)タンカーで輸入しています。政策上、原子力発電の優位性を保つため、または、電力会社が利権を守るためとも言われています。パイプラインだと、既存の発電所までの途中に、低コストな他の発電所が建てられるとも限らないからです。


Solar Panels Replace Windmill / Dave Dugdale

エネルギー源を分散し、やりくりしていく

日本全体のエネルギー需要サイドの電力化率が25%程度に過ぎないのに、エネルギー投入サイドの電力化率が45%もあるという、大きなギャップの原因は、この火力発電の発電効率の低さにあり、ここに広大な殆ど未踏の省エネルギー「大陸」が広がっている

エネルギー対策は、なにも新しいエネルギーを開発することだけではありません。省エネルギーも有効なエネルギー対策になります。日本は確かに資源は乏しいですが、技術力を活かした省エネで十分勝負になるのです。

今後は原子力発電をすぐに無くせないにしても、徐々に減らしていく必要があるでしょう。風力や太陽光エネルギーといった再生可能エネルギーには安定性に問題があり、それらに全面的に頼ることはできません。

日本も、世界の主流となっている、発電効率が抜群に良い天然ガスをメインに据えて、複数の再生可能エネルギーと、コジェネやスマートグリッドなどの省エネルギーを取り入れて、一つのエネルギーに依存せず、安定性とエネルギー効率を高めつつCO2削減していく道を探ることが、現実的な道と言えそうです。

参考になる動画がありました。

読書2011
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